■NC現るラリーエリソンCEO、NCを語る そして1996年2月26日。遂にオラクルの500ドルPC(NC)実演の日がやって来た。
2月26日から28日までの三日間、サンフランシスコ・ヒルトンホテルでオラクルのディベロッパーズカンファレンスが開催されていた。そして、その初日の午後に報道陣とディベッロッパーが期待の目で見守る中で、オラクル社の会長兼最高経営責任者であるLawrence J. Ellison(通称:ラリー・エリソン)氏による基調講演が開かれた。基調講演の概要は製品の形態や価格、製品化時期、そして開発コンセプト。そして何より世界初のNCによる実演デモンストレーションである。
John: |
参加者に米国大手TVネットワーク会社がいくつかあるね。今夜はこのカンファレンスの様子が一斉に報道されるだろうね。 |
Koz: |
単にインターネットという既存の枠を超えてメディアとしての注目を浴びているんだね。あ、John、スピーチが始まるよ。 |
Ellison会長は簡単な挨拶の後、晧晧と照らされるライトの中で早速NCについての製品形態と価格、発売時期についてのスピーチを始めた。(以下、要約)
Ellison:
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NCの実演とビジョンを熱く語るラリー・エリソン会長。米メディアにはマイクロソフトのゲイツ会長を脅かす最後の人物と評価されている。サンフランシスコにて、1996年2月。「NCの基本的な部品構成は、8MBのDRAM、EtherNETインタフェース、スマートカード、キーボード、マウスかそれに類似したものである。コストは$295で製造できる」 |
NCはわずか300KBのOSで動作するネットワークコンピュータだ。エンジニアにこのことを告げると、「キロバイトって単位はしばらく聞いてないけどメガバイトの何倍だったっけ」という冗談が飛んだ。(場内笑いが起こる)
最近ではOSだけで何十MBのものが多いが、本来OSは簡素なものだった。NCはOSもハードも簡素なもので、現在デスクトップ、ラップトップ、テレフォン、セットトップの4つの形態を考えている。基本的な部品構成は殆ど同じで、8MBのDRAM、EtherNETインタフェース、PCMCIAインタフェース、キーボード、マウスかそれに類似したもの、など合わせて$295で製造できる。すなわち販売価格で十分$500は実現可能な範囲だ。発売時期はARM(英国Advanced RISC Machines社)のRISCプロセッサ搭載モデルが96年9月、Intel製100MHz Pentiumを搭載したモデルを年内に発売したい考えがある。ただし、オラクルブランドのNCは製造・販売する意志はない。オラクルはNCの製造ライセンスロイヤリティとソフトウェアを含むサーバ製品を販売して利益を確保したいと考えている。
パソコンは15年前に開発されたものだ。15年前にはネットワークなんてなかったから、パソコンのデザインは独立したスタンドアローンを基本としてデザイン設計がされている。もし、15年前パソコンができた時に既にネットワーク環境が整っていたら、パソコンは今の様なデザインにはならなかっただろう。例えば、新しい環境にするためには家の増築よりも基本的な建て替えをした方が効果的であるように、パソコンの形態も新しいネットワーク時代にあわせて変わる時だ。
さて、オラクルはビデオ・オン・デマンドのセットトップボックスの開発をやめて、NCのようなWeb端末開発に戦略変更しているという噂が流れている。今朝の新聞報道でも取り上げられ、まるで事実のように書かれているが、この噂は本当だ。(場内、大爆笑)
サン・マイクロシステムズは「OAK」という家庭用機器、例えばInteractive TVなどのプロジェクト開発をしてきた。その「OAK」からの応用で生まれた技術が「Java」だ。InteractiveTVとNCの目的は同じだと言えるだろう。すなわち開発としては統合されることになる。
やがて、会場の巨大なスクリーンにモニタ画面が移しだされる。
Ellison会長がNCのデモを始めたその画面は、なんと家庭用テレビ画面の投影だった。家庭用テレビに接続したセットトップ端末からサーバにログインし、サーバ内のアプリケーションを動作させる。その為、セットトップ端末には記憶装置は必要ないのだ。その画面はAllen副社長がホームパーティで語っていたようにパソコン画面を家庭用テレビに移した時に発生し易いチラツキや水平ラインの歪みもなく、非常に見やすいものだった。まず、 Ellison会長はリアルタイムでビデオ動画を再生してみせた。
2チャネルを使用したISDN上で再生されているビデオデータは画面上の1/4大の大きさで1600万色フルカラー、32bitオーディオサウンドとのことだったがコマ落ちも殆ど見られずスムーズな動画再生だった。このビデオ動画再生システムに動画の圧縮伸張技術が加われば、それがビデオ・オン・デマンドになる。
次に、オーディオCDの通信販売を想定したデモ。オーディオCD販売店のサーバにアクセスして、新着タイトルを試聴する。気に入ったものがあればオンラインで購入する。
そして、USA TODAYのニュースの閲覧とJAZZ番組「JAZZ Central」を楽しんだ。いずれも従来のパソコンで実現可能なものであるが、これをネットワーク端末を使って誰でも簡単にできるような環境を実現することがオラクルの視点である。端末の電源を入れてログインするだけで実現する、すなわちOSやアプリケーションのインストールや設定が不要なよりコンシューマ向けの環境の実現だ。
Ellison:
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NCのリファレンスデザインとして、デスクトップ、セットトップボックス、ノートタイプの3種が紹介された。 |
接続にはbit用ケーブルとelectric用ケーブルそれぞれ一本ずつであることがベストな構成だろう。それ以上に複雑になれば家庭用としては使いにくい。
オラクルでは、考えうるどんな種類のデータをも扱うことができるユニバーサルサーバの販売を開始した。これは、リレーショナルデータベース、マルチディメンショナル、テキスト、ビデオ、Web Page、メッセージなどあらゆるデータに対応する。
NetScapeがインターネット業界のMicrosoftにならないように(強力な一社による独占に近い状態にならないようにの意)、私たちはサン・マイクロシステムズと共にネットワーク環境の発展に努力している。
実は、同日の午前中にサン・マイクロシステムズの基調講演が行われていて、そこではJavaのカンファレンスが中心だった。そこでも500ドルPCに関して触れられていて、NCの販売方法は店頭、通販のほかに、プロバイダが考えれている。ただし、携帯電話の様にプロバイダがNCの本体を無料で配布し、会員を増やす動きも考えられるとしている。
Ellison会長のスピーチが終わるとたくさんの質問が投げかけられた。例えば、NCを一番最初に発表する会社について質問されたがEllison会長は「今はまだ発表できないが世界中のたくさんの大手メーカと話をしている。名前を10社挙げれば、半分は当たっているだろう」と返答していた。また、ネットワークにおける信頼性を疑問視する声に対しては「人々にとってコンピュータのデータより自分の家に引かれている水道の水の方がはるかに大切だ。それなのに水道菅のネットワークを心配する人はいないのはなぜだろうか?」と言い返し、サーバがダウンしたらデータがなくなってしまう危機感に対しては、「私の身近でオフィスからスタンドアロンのノートパソコンが盗まれた。彼はバックアップもなく復旧するのに何日もかかった。NCなら盗まれてもデータはバックアップがとられた安全な場所に保管してあるから安心だ」とかわしていた。
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ついに500ドルPCが具体的に見えてきたね。さすが渦中にあるオラクルは手応えのあるプレゼンテーションをしてくれるね。そうでなくっちゃ。 |
Koz: |
このデモンストレーションによってパソコンの新しい形が提案された訳だけど、MicrosoftやNetScapeがこれをどう受け止めて次の一手を打ってくるかも楽しみだね。 |
John: |
NetScapeはこの間、電話で500ドルPCについて取材した時に「まだ実現していないものだから何ともコメントできない」って言ってたけど・・・・。 |
Koz: |
この大都市サンフランシスコは100年以上も前に起こったゴールドラッシュの時に溢れかえった野心家達の夢を食べて巨大化した街だ。インターネットビジネスがコールドラッシュに例えられている現代、再びこのサンフランシスコ・ベイエリアで金塊を求める野心家達の夢がぶつかり合うとは、どこか劇的だね。 |
John: |
コウチャン、シリコンバレーがもっと好きになった感じ。
Shall we go! |
ps:
ネットワークコンピュータはその後、様々な形態のコンセプトが立案されるが、その流れの中では実現に至らなかった。しかし、現在、話題になっているネットブックやディスクレスPCの思想や特長はNCとの共通点も多い。
>> 【NEXT】 (お楽しみに) |