■やって来たぜ、シリコンバレー
|
シリコンバレーは、カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリア一帯をさす。 |
ネットワーク環境にとって、誰もが激動の年と予想する1996年の2月初頭、私はアメリカのシリコンバレー・サンノゼ国際空港に降り立った。
-30℃以下という東海岸の異常寒波なんて嘘のように、カリフォルニアの太陽は今にも干からびそうな空港の滑走路をまぶしく照り付けていた。税関の係員が私のパスポートを眺めながら話し掛けてきた。
「アメリカに来た目的は観光ですか?」。
私はしばらく黙っていたが、やがて「ここシリコンバレーに私の求める究極のパーソナルネットワーク環境が存在するに違いない」とひとりつぶやき格好をつけた。しかし、彼は私の日本語が理解できない様子だった。
空港の出口でずっしりと重いスーツケースを受取り、途方にくれた瞬間、リアカーを押したTシャツ姿の巨大なJohnがいつもと変わらないアメリカンスマイルで突進してきた。
「さすが、ナイスタイミングだよJohn!」
John: |
How are you コウチャン! お久しぶり。 |
Koz: |
暑い!なんじゃ、この暑さは・・・。寒波じゃなかったの?
コートなんて着込んできちゃったよ。 |
John: |
アメリカは広いよ。カリフォルニアは普通の天気。
それはそうと、今回は何しに来たの? |
Koz: |
何しに来たとはご挨拶だね。パソコンの最新情報を求めて、Internet ASCIIの1500万人読者(推定)とともに、はるばるシリコンバレーまでやって来たのですよ。 |
John: |
Ok!・・・・でもパソコン情報といってもたっくさんあるけど |
Koz: |
解ってますって。アメリカといえば、勿論、ポップコーンとコークとバットマン・・・ |
John: |
どこかで聞いたコピーだね。 |
Koz: |
そんでもって「インターネットとネットワークコンピュータ」。
さぁっ、行こう。John。
さぁ早く。 |
■クライアント-サーバ・システムの問題点
唐突に始まった「JohnとKozのシリコンバレー・インターネット・プラグイン」の初回のテーマはネットワークコンピュータ(NC)だった。NCは、企業のLAN運用にかかるコストを大幅に軽減するために提唱されたアイディアだ。
その昔、企業で構築されていたネットワークシステムは、汎用コンピュータ、メインフレーム、オフコン等の専用システムで、膨大な処理能力を持つ超高価なホストと専用端末で構成されていた。それにとって替わって、「ホストと専用端末」のすべてを比較的廉価なビジネスパソコンで構築すれば、導入コストが安く抑えられるという「クライアント-サーバ」システムが提案された。
この提案は「ダウンサイジング」をキーワードに、たちまち企業に浸透していく。「クライアント−サーバ」システムは超高価なホストに処理を一極集中する方法とは異なり、端末側(クライアント)にも処理能力を持つPCを接続する「分散処理型」だ。大量生産されるPCをベースに構築するため、導入費用は相当に軽減された。しかし、問題点も浮上する。それは分散処理による「運用コストの増大」だった。
運用コストとは、PCのメンテナンスや故障、ソフトウェアのバグの対応や更新作業、トラブルの復旧に伴う技術者の対応などを指すが、これらが増大した背景にはクライアントであるPCが高機能と引き替えに複雑化していることがあった。
■ネットワークコンピュータの衝撃
|
ネットワークコンピュータ(NC)のイベントでビジョンを熱く語る米オラクルのラリー・エリソン会長。 |
たちまち、クライアント-サーバ・システムの運用コストの増大は問題視され、その解決策としてオラクルやサンマイクロシステムズ社が提案したのがNCなのである。
簡単に視点をまとめてみよう。
【NCの視点】
- クライアントにハードディスクが搭載されているのが問題である。
ソフトウェアやデータをサーバからその都度読み込んで処理すれば、メンテナンスも必要ないし、ソフトの更新もサーバだけで済む。
- クライアントの拡張性が高いのが問題
PCは拡張機能を搭載しているために、様々な設定操作によるトラブルが発生する。オフィスで使用する場合、個々が拡張する操作や機能などは不要。
- OSはもっとシェイプできる
Windowsは重い。実質32MB以上のメモリを要求する。クライアントは必要なソフトだけで動作するもっとコンパクトな言語Javaが最適である。
- PCは過剰機能ゆえに高価過ぎる
機能を絞り込めば、価格ももっとシェイプアップできる。ハードディスクと拡張バスを取り去ろう。OSやソフトをコンパクトにすればメモリも少なくできる。そうなるとクライアントは500ドルで提供できるはず。
こうして誕生したNC構想に、マイクロソフトWindowsとインテル陣営「Wintel」への反旗を欲しがる声も加わり、NCは企業システムのコスト削減の切り札として大いに注目されたのである。
業界では運用コストを含めた「TCO(Total Cost of Ownership)」の削減がキーワードとなった。
だから、NCによって店頭で安くWindowsパソコンが買えるようになると思っていた人は、そのとき既にちょっと勘違いだ。
■500ドルPCのビジョンはシリコンバレーにあり
NCは当初「500ドルパソコン」と呼ばれ、提唱したのは米オラクル社,米サン・マイクロシステムズ社,米ネットスケープ・コミュニケーションズ社,米IBM社,米アップル・コンピューター社の5社だ。
この提唱メンバーを見て欲しい。
IBMを除いてはみんなシリコンバレー育ちの猛者たちだ。「500ドルPC」は、いわばシリコンバレーの代表チームが提唱したもの。それを調べることがインターネットアスキー特派員 John と Koz に課せられた最初の使命となれば、シリコンバレーに乗り込むしかない。
Kozは早速単身シリコンバレーのサンノゼ空港へ飛び、現地のコンサルタント役Johnと合流することになった。ここから、すべてのストーリーが始まったのである。
果たして500ドルPCが語る薔薇色の将来とは何か。
>> 【NEXT】 幻の500ドルPCを求めて (2) |